『ミス二(ミスターフルスイング二岡)』の朗読を終えたところで、貝殻の男は貝殻を細かく砕きながら絶叫して、倒れた。
どうやら、良かったらしい。
「たく・・・また気絶かよ」
まっさきに貝殻を掃除しなくてはならないのかと思いうんざりしたが、しなくてはならない事はないと思い直したのでうんざりしなかった。
さて・・・埋めても見つかるだろうし、流してもひっかかるだろうし、ほうり投げても戻ってきそうだし、気功でフッ飛ばしても耐えそうだし、超能力は信じてねーし、第一使えねーし・・・困った。
どうやって処分しようか。
写真写りがいまいちなこの卒業アルバム。
鼻歌でレミオ路面を力いっぱい歌いながらの考え事は、鼻に集中しすぎて答えが出にくい。
あっと、そうだった。アルバムの前にこいつだ。この男をどこかに埋めるか追い炊きするかミディアムレアにするかしねーと。いつまでも俺の前をうろちょろされちゃあ、目障りだ。大体うろちょろしてる暇があれば、調理実習の復習でもしてろっつんだ。
「ん?そういえば・・・俺なんでこいつのところへ来たんだ?アカデミーなんかに用はねーのに・・・」
いつもそうだ。
気が付くと目の前にこいつがいる。
食事をしてれば目の前で頬杖をついている。
昼寝から起きれば無断で膝枕。
風呂に入れば自らがタオルになろうとする。
手裏剣の手入れをしてればヒーホヒーホとちょっかいを出してくる。
髪を結おうとすればゴムで顔面をはじかれるのを待っている。
鹿の世話をしてれば自分の老後の世話も頼んでくる。
ダチとつるんでる時は木の陰からコンニャクを投げてくる。
他のセンセーと話をしてると寒天に切り替えまた投げる。
火影様と話してる時はさすがに生活・命の危険を考え我慢する。
コタツを出せばスライディングで頭から入ろうとする。
カーテンを替えればお得意のラップで大暴れ。
外出する時は玄関先で野良猫と対立する。
海に泳ぎにつれて行けば必ず神隠し。
山にキャンプへつれて行けば中耳炎。
田んぼにつれて行けばはしゃぎすぎて全身打撲。
ライブにつれて行けばすぐ年金問題を考える。
警察につれて行けばひととおりひやかして帰ってくる。
監獄にぶち込まれればさすがに反省する。
目薬をさすのを死ぬほど嫌がる。
うさぎの耳の血管が怖いと泣き叫ぶ。
カリヤザキショウゴも怖いと泣き叫ぶ。
おだぎりじょーは素敵すぎると泣き叫ぶ。
考えてみると、俺はこいつの行動パターンを嫌というほど把握しているじゃないか。それだけ二人で過ごした時間が長かったのだと気づかされる。
いまなら。この気持ちに気が付いたいまなら・・・俺は素直になれるんじゃねーか?
照れくさくって・・・結局、逃げてたんだな俺。こいつを罵倒することで快感を覚えてたのはナントカの裏返しってヤツ、か?
「・・・へっ、いつの間にかはまってたのは俺か・・・」くしゃりと自然に笑顔が出る。
「お前・・・(グスン)やっと・・・前の優しいお前に戻ってくれたんだな」
「悪ぃな。とりあえず金目の物は全て頂いていくぜ!」
「あっ!?このろくでなしー!おっ、おまわりさぁ〜ん!!」
こうして俺の逃亡生活が開幕した。
<つづく>
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