「・・・ドゥ、トロワ・・・アンドゥトロワ・・・ひっくひっくゴホゴホ」
気が付けばもう夜明けに近かった。目の前の熊ゴンは泣きやまず、ひたすら片栗粉を水で溶いている。
このままでは瞳からこぼれ出る涙を調味料にしかねない。
オレは防御策としてブルドックの物真似をしてみせた。
笑う、メス熊。
あおいテルヒコの位置は譲らねえ。
―ところが、甘かった。
この世のものとは思えぬ形相でウホホウホホと笑いながら、涙をナイアガラレベルで流しているではないか。
必死にボールですくってやるが、キリがない。
<のちにわかった事だが、よく見るとザルだったのだ。>
「バカヤロー!笑いすぎだ!」
「だって・・・だって超ウケるんですけど!」
本気で可愛くない。しかも異常なほど笑いっぱなしだ。
真冬の寒空の下、素っ裸でメインストリートを練り歩いているのに御用にならないほど、異常だ。
しかし、このまま笑いながら一発ガスでもかますものならオレはこいつをペットボトルの再利用方法で殺しかねない。
それではオレが御用になっちまう。そんなのゴメンだぜ。
ゴロゴロゴロ、ゴン!
「ウゴゥッ」
「マジかよ・・・」
ちょっと考え事をした隙に、笑いながら転げ回り近くにあった宇宙戦艦にブチ当たって気を失ってしまった。
どれだけ世話を焼かせる奴だ、全くもって信じられない。明日で夏休みが終わりだなんて。
とりあえずオレはそっと新聞紙をかけて、顔には丁寧に白い布を被せてやった。
被せてみたが、もう一度覗き込んで見る。
そうしてもう一回被せる。
やっぱりもう一度めくって顔を見てみる。
今度は思いっきりはにかんで被せてみた。
マヨネーズも一緒にかけてみた。
なんだ・・・?
胸が苦しい。
こんな感情は初めてだ。
何だ?オレは今・・・何の感情をこいつに抱いた?頭が痛くなる。
「ハッ・・・ハァ・・・、わ、わかったぜ・・・」
怯えた黒い瞳、口を驚いたまま開け、そっと震わせたあの表情。
そうか、こいつはウツボに似ている。体に似合わないつぶらな瞳。
かつおが有名な高知では、『ポストかつお』の声も高いと聞いたことがある。『ウツボのたたき』をご馳走してくれるところもあるらしい。
だから
<つづく>
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