「やっと済んだな」
オレは実に清清しい気分でそこに立っていた。
目の前には、街角の人通りの少ない路地裏にあるさびれたパブの様な店。
『倶楽部OROCHI』の看板。
もっとも、正確に言うのであれば『オレの手によって再起不能になる位、暴走族ペイントされた「倶楽部OROCHI」の看板』だが。
こういうひと気のない場所でこんな書きやすそうな看板に出会えるとはな・・・つい昔を思い出して、手にもったスプレー缶が自分でも気づかない内に芸術の嵐を繰り広げた。
なかなかイイ出来じゃねーか。そういえばパクられたアイツ、どーしてっかな…まさか一緒に落書きしてて全裸になってるとはよ。前から露出狂じゃねーかとメンバーから疑いかけられてたが、マジだったもんな。せめて最後に服の絵でも体に描いてやりゃあ良かったか。
「…へへ。ちょいとおセンチになるなんてオレらしくもねー。帰っか」
「あああ!何だこりゃ!?」
オレがつないでおいたチョコボにまたがって去ろうとした時、一人の男が芸術のスパンコールが散りばめられた店の看板を見て悲鳴をあげた。
おいおい、あまりの素晴らしさにここで授与式なんてよしてくれよ。そんな事になったらオレはとんだハプニングメーカーってヤツか・・・へへへ、悪くねぇな!
「コラ待てぜよ!お前がやったのか!?」
「そうだとしたら、どーすんだよ」
オレは相手を焦らすような台詞を言いつつ、両手は賞状を受け取る体勢に入る。
「この手は何ぜよ!?あと数時間で営業なのに、こんなんじゃ客が来ないぜよ〜ゲームオーバーぜよ〜」
「客くんのか?この店。うんこみたいだぜ?」
「それはてめーが看板にうんこばっかり描いたからぜよ!なんだこりゃ!うんこから煙だして“出家した女性”って書かれても意味わかんないぜよ!こっちも小さいうんこ沢山描いて“ワールドベースボールクラシック日本代表チーム”って訳わかんないぜよ!てーか謝れぜよ!」
「うんこじゃねぇ!サーティワンだ!」
「(ビクッ)・・・・・!!」
オレが急に声を荒らげると、ぜよぜよウルサイ男は怯えるような瞳をした。
何故かオレはその瞳に懐かしさを覚えた。
「とにかく・・・このままじゃ、大蛇丸ママに見つかってヒドイ目に合うぜよ・・・」
「ヒドイ目だと?オレの方が合わす自信あるぜぃ?」
「お前はママの恐ろしさをわかってないぜよ。ママが怒ったら、どこかの家が子宝に恵まれるぜよ。それに逃げた犬も帰ってくるし、家電からかけた方が携帯電話への料金が安くなるし、悩みに悩んだラブレターも投函できるし、書けなくなった油性マジックが除光液で復活する裏技も発見するぜよ」
「そうか、じゃまず一ヵ月位連チャンで怒らせておこうぜ」
「ひひひ人の話を聞けぜよ!!!」
ふとそこへ、髪の長い血色が思わしくない奴が現れた。
「貴方達、何やってるの!きゃあ、なによこの看板うんこだらけじゃないの!」
「大蛇丸ママ・・・!それはコイツがやったんぜよ!」
「カブト!鬼童丸の口真似はやめなさいって言ってるでしょ!」
<つづく>
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