物音ひとつしない、静まり返ったアカデミー。

ここに来るのは何年ぶりだろうか。そう、アイツと出会ったこの場所は。

何も変わらない?いや、変わらないわけがない。

目の前には…そう

 

 

「あんたさぁ、何でいつまでたっても覚えようとしないわけ?」

流石に苛立つ。自分よりも15も年上の、ましてや上司であるこの男は、調理実習のずいぶんな不出来さ具合から居残りをさせられていたのだった。

「オレが中忍試験受ける前も得意げに話してたじゃねーか。“あんかけチャーハンが作れないような奴は忍には向いてない。その点オレのあんかけチャーハンは服部先生もウウンウンとのお墨付きだがな”ってよ。」

返事も動きも無い。うつむいたまま、シカトかよ。

「・・・それが嘘発覚。あんかけの『あん』も作れないダメダメセンセーだったとはな。・・・マジ、ドン引きだぜ」

「違う・・・!作れないんじゃない!作れなくなったんだ!!」

「同じだ!」

「(ビクッ)・・・!!」

シーン。無名芸人の前説がスベりまくってフォローがきかなくなったような空気。ああ、本当にイラつく。こんなめんどクセーやりとりをしにきたんじゃない。

見れば目の前の大柄な熊ゴリラのような男は泣きそうになっている。熊ゴリラといっても7:3で熊の割合が多い。

「泣くな。泣いたらおてんとさんに笑われちまうぜ。泣くヒマがあるなら、もう一回オレの前で作ってみろよ。」

「・・・わかったぜよ」

 

ドンガドンガドンドン。ヒュゴォォー。

 

「あんた、野菜切るところまではいいんだけどな」

「当たり前だ。誰だと思ってるんだ」

「違う!」

「(ビクッ)・・・!!」

ボーン。見れば時計は夜中の12時だった。こいつがガラスの靴を落として逃げようとする前に、オレは全力のチョップで動きを止めてやった。地味に鈍い音がしたようだった。

「基本的な事がわかってないようだな・・・『あん』は片栗粉で作るんだよ・・・今、何を取ろうとした?」

「か、片栗粉です」

「へー・・・この期に及んで何でそんなつまんねー嘘つくんだよ?じゃあコレは何なんだよ!?」<ドサッ>

「あっ!・・・す、スイマセンでしたー!」

「小麦粉ってかいてあるよな・・・ええ?読めないんスか?せ・ん・せー?」

目がすっかり怯えきっている熊ゴジラ。アレ?ゴメスだったか?まぁいい・・・

「オレが正しい片栗粉の使い方を教えてやるよ・・・!」

 

<つづく>

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